黒い雨/井伏鱒二 1966年 評価:3


 広島への原爆投下後の、被爆者である夫婦の生活と、預かっていた姪の矢須子が病気を発症し重篤になるまでを、実際の被爆者の日記も多く引用しながら描いた、ドキュメンタリータッチの作品。

 私にとっては1989年の映画版における元キャンディーズのスーちゃんの熱演の印象が強く、矢須子が時を経て原爆症状が出る悲劇という印象を持っていたのだが、原作はそのような物語性はあまりなく、戦争の厳しさではなく、原爆という得体のしれない破壊兵器の恐ろしさが被爆者の日記の引用の形をとることで、原爆投下直後の広島市の凄惨な状況が生々しく表現されている。

 戦うものではなく、一般人が甚大な被害を被る新兵器の恐ろしさを極めて冷徹な観点で描かれているが、現在は当時の原子爆弾の比ではない爆弾も多く開発されており、それらが使われる時が来る際の恐ろしさまで連想してしまう。