ペスト/カミュ 1947年 評価:4
アルジェリアのオラン市でペストが大流行する。市は閉鎖され何万人という人が死んでいく中、そこに閉じ込められた市民、閉鎖により恋人や家族と別離を余儀なくされた人々などの人間性や、不条理の中の理性といったものを、オラン市の医師リウーの目を通して、客観的で硬質な文章でつづる名作。
非常な日常を冷徹かつ詳細に、文学的に格調高い文章でつづっていく内容は、三島由紀夫の作品に近いものがある。無差別な病原菌の攻撃により、理不尽に死んでいく子供たちや、リウーの友人たちなど、そこを感傷に浸る筆致で描くこともできただろうに、徹底的にそのような描写を避けることで、人間の生に対する向き合い方を赤裸々に暴露していく。脱走を企てるもの、祈ることで病気を克服しようとするが、その無力さを受け入れて救助活動に加わる神父、市内で隠遁生活を送っていて、ペストの流行で市が閉鎖されることに嬉々とする犯罪者など、様々な登場人物がいるのだが、その交通整理の手際も良く、やや硬質な文体に好き嫌いはあるかと思うが、まさにすごい作品だと思う。