バイバイ、エンジェル/笠井潔 1979年 評価:2


 1970年代のパリ。中心街にあるアパートで、中年女性の首なし死体が発見される。警察の捜査が始まるが、なぜか担当警視の娘とその友人である矢吹駆という日本人が探偵まがいとして加わり、さらに連続した殺人事件の真相を暴いていく。

 ストーリーとしてはアガサ・クリスティなどの正統派ミステリーをなぞるものであり、それ自体はなかなか面白いのだが、個性的で陰のある美男子という設定で突如として登場する矢吹と警視の娘だからか捜査の内容を詳細に知ることができるナディアという存在による、赤川次郎ものや「名探偵コナン」のような、一般市民が大活躍するありえない展開が、常に読み手側の冷ややかな客観性を励起させる。また、矢吹は「現象学」という考え方を武器に謎を解いていくのだが、これが無駄に哲学的な思想を陳述するためテンポが悪い。

 読んでいる途中から、このアニメ的設定と展開、矢吹というキャラを惹きたてようという描写が、矢吹を中心にしたシリーズものを画策しているのではないか、と感じていたが、調べてみると案の定、矢吹が登場するミステリーは本作をかわぎりにシリーズものとして10作以上発表されている。なにか、商業主義的な裏の考えが見え隠れする気持ち悪い作品である。