侍/遠藤周作 1980年 評価:5


 藩主の、貿易や軍事技術の導入を目的にした国外と交流の命により、1600年代初頭に宣教師兼通訳のベラスコおよびそのほか3人の使者や多数の商人と共に、メキシコからローマまでの遠征に旅立った東北のとある藩の下級クラスの「侍」と、ベラスコの二人を主人公に、当時のキリスト教の全世界的布教と日本人の宗教観、人生観を描いた、題材としては1966年の「沈黙」と似た作品。

 本作のストーリーや、登場人物は史実に基づいている。命を受け約2年間をかけてローマにたどり着いた「侍」は、その旅の途中、異国での通商交渉に有利になるようにキリスト教に帰依したが、おりしも日本国内では厳しいキリシタン禁制が布かれたのと同時期。キリスト教への帰依は、それが表面的なものであったにせよ、帰国後に否が応でも「侍」の運命を大きく変える。また、野心的なベラスコは自身が日本での布教の中心になることのために様々な虚言をも駆使するが、結局この旅はすべて水泡に帰すことになってしまう。

 そんな厳しい人生と、「侍」を含む日本人搭乗者やキリスト教圏内の重鎮たちの政治的思惑、メキシコの征服されたインディオの生活などを通じて、信仰の問題や本質を鋭くえぐる。宗教の善悪の側面を正面切って描くということはすごいことだし難しいこと。キリシタンであった遠藤周作の深い洞察があってこその内容であり、「沈黙」と併せて読むことで宗教(キリスト教)というものを深く考えてみることは決して無駄ではなかろう。