門/夏目漱石 1911年 評価:3


 「三四郎」「それから」に続く3部作の最終作。登場人物の名前や多少の設定は異なるが、親友の妻を奪い取った「それから」の後の、高等遊民だった主人公とその妻の生活ぶりを平坦に描いた作品。

 妻を奪い取ったまでは男らしかったが、元々親の残した遺産でのうのうと暮らしてきた宗助に生活力があるわけはなく、その頼みの遺産もなくなった今では妻と二人で暮らす生活で精いっぱい。一方、妻の御米は2度の流産を経てすっかり精神的に沈滞してしまい、そんな二人はお互いに現状を受け入れ、手を携えた慎まやかな生活を続ける。

 若かりし頃の宗助のように若さに溢れる弟・小六や、間接的に、御米のかつての内縁の夫・安井の登場など、物語に波風を立てる人物の登場はあるものの、基本的に自分の能力と将来にあきらめを感じ、それを許容して生きている二人は生き方を変えることは全くない。文学としての完成度は高いものの、その内容に魅かれることはないので、どうしても平均的な点しかつけられない。