誰がために鐘は鳴る/アーネスト・ヘミングウェイ 1940年 評価:4


 スペイン内戦に爆破工作員として橋梁爆破の任務を負いスペイン奥地に潜入したジョーダンは、ファシスト軍に両親を殺され辱めを受けた後ゲリラ隊に助けられたマリアと知り合い、恋に落ちる。意思疎通の難しいゲリラ隊とともに行動を共にしながら、何とか当日を迎えるジョーダンは、敵の動きから自分の任務が無意味になることを知るが、彼はそれでも命令である橋梁爆破を敢行した結果、瀕死の重傷を負い、マリアを含めた仲間を逃がす。

 大学時代に一度読んだが、なんといっても映画版のマリア役であるイングリット・バーグマンの美しさ、それと「キスをするとき鼻が邪魔じゃないかしら?」という名セルフばかりが記憶に残っている作品。しかし今回読み返してみると、実際にスペイン内戦時に国際旅団側に加わったヘミングウェイから見た多国籍軍と現地の軍隊との意思疎通の難しさや、この内戦の意味付けの不可解さなど、かなりの紙面をこの戦争の実情に費やしており、決してメロドラマではないことがわかる。

 ジョーダンも軍人ではなく元は大学教師のアメリカ人であり、その彼が他国のために絶望的に命を投げ出すことを、美しいマリアとのたった3日間の切り詰めた夢のような熱い恋愛関係の甘さと対比することで見事に人生の無情を描いている。