舟を編む/三浦しをん 2011年 評価:3


 新しい国語辞典を発行するため、営業部員の馬締は、定年を間近に控えて後継者を探していた辞書編集部のベテラン編集者・荒木に引き抜かれ、辞書編集部に異動する。馬締は言葉への強い執着心と持ち前の粘り強さを生かして、辞書編纂者として才能を発揮してゆく。

 主人公は周りからどう思われようがお構いなしのいわゆるオタク。彼と運命的に結ばれる料理人の香具矢は、過去の男づきあいに傷を持つツンデレ系美人。それ以外の主要登場人物も馬締の真面目な仕事ぶりと辞書作りの面白さに魅せられて、とにかく悪人というのが一人も出てこないという、現実をベースにしたファンタジーという趣。ストーリーも極めて予定調和的に進んでいき予測通りの展開で、人生の辛酸をなめてきた中年オヤジには現実離れしていてどうにも入り込めないところはあるのだが、このような素直な内容の小説も時に読むには新鮮で、心休まるという感想を持つのも確かではある。