風の又三郎/宮沢賢治 1967年 評価:4


 童話作家宮沢賢治が残した代表作「風の又三郎」「セロ弾きのゴーシュ」「グスコーブドリの伝記」の他、1900年代前半の計19編が収められている。

 宮沢賢治の作品は、童話とはいえ大人のほうが感慨深いものを感じるという点では、サン・テグジュベリの「星の王子さま」に通じるものがある。まず視点が優しい。人間にとって大切なものは何なのかというところに常にベースがあるため、知性が劣っていても一生懸命生きている真面目な人物は必ず報いられて、わずかでも幸せが得られる。また、人間批判的な作品では、醜いところは擬人化された動物で例えられて、どぎつすぎるところはなく、どの作品も読みやすく、とっつきやすい。

 また、風景や雰囲気の描写がとても日本的でかつ色彩的なので、自分自身、どこかで経験、見たことがあるような錯覚を覚える。まさに日本土着の童話作家であるし、日本人の心に訴えかける作品群である。