天平の甍/井上靖 1957年 評価:3
700年代中盤の奈良時代に遣唐使として唐にわたり、日本の仏教を正当に広める基となる、出家者に正式な戒を与えるために、高僧であった鑑真を日本に招請することに奔走した普照を主人公に、同じ遣唐使であった親友、栄叡他の新旧遣唐使の生末を絡めたドキュメンタリータッチの作品。
今から1200年以上も前、中国から日本に船で渡ることさえも命がけだった時代に、日本に仏教を正当に広めるため、渡日に5度も失敗しながらも命を懸けて鑑真を連れてきたという偉業を、残存少ない史実を基に描いたもので、実に神々しい物語である。一方それほど昔の話なので、あまり脚色することもままならず、物語としては平坦だが、日本に仏教が広まった背景に、遣唐使たちの崇高な精神と行動力があったということがよくわかるという意味で貴重な作品ではある。