共犯者/松本清張 1938年 評価:4


 社会派推理小説家として名高い松本清張の1964年から65年にかけての10編を収めた短編集。平均40ページ弱という尺の中で、推理小説にとらわれず、人間の弱さや狂気など様々な題材を扱っている。

 私は基本、短編集は苦手なのだが、それは短い尺の中でストーリーを完結させようとしたり(特にミステリーものに多い)、多くの人間の感情をまとめようとするあまり、展開が破綻していたり、ストーリーも心情も都合のいいように運んだりして信憑性を大きく損なうことが多いからである。しかし、本作は違う。まず、対象を極限まで絞り、ストーリーの中心となるところへの掘り下げ方、集中がすごい。だから、かたち上は急な終わり方であっても、その残す余韻が長く深い。大した題材でないにしても描かれる人物の印象が極めて強く残る。

 さすがは短編の名手といわれるだけはある。長編は正直、特にミステリーものが多いため古さを感じてしまうのだが、短編だとそれはあまり感じる間もないので、もう少し読んでみたいと思う。