レベッカ/デュ・モーリア 1938年 評価:5


 富豪夫人の付き人としてモンテカルロのホテルにいた平凡で子供っぽい「わたし」は、そこでイギリスの大金持ちである、1年前にヨットの事故で妻レベッカを亡くしたマキシムと出会い、「わたし」はマキシムの後妻として、イギリス・マンダレイにある彼の大邸宅へ行く決意をする。多くの使用人がいる邸宅の女主人として、控えめながらやっていこうとする「わたし」だったが、冷たい使用人、ことあるごとに目につく先妻レベッカの煌びやかな記憶と評判に、次第にレベッカの見えない影に精神的に追いつめられていく。

 「レベッカ」といえば、映画好きの私にとってはヒッチコック監督、ジョーン・フォンテイン主演でアカデミー作品賞を受賞した1940年の映画作品がまず頭に浮かぶ。先妻の影におびえる美貌で控えめな「わたし」が虐げられるような内容で、ヒッチコックにしては至極オーソドックスな作品と記憶しており、その記憶のまま読み始めたが、これがいい方に裏切られた。

 なんといっても主人公の「わたし」が悲劇のヒロインぽくない。「わたし」はマキシムとの結婚という玉の輿にのって妄想を膨らまし、その幸せをみんなに自慢したいというような、極々ありふれた21歳の少女なのだ。また、マンダレイの大邸宅でも問題に立ち向かわずに避けるばかりで、読者は彼女のあまりの普通っぷりにイライラもし、でも返ってどこにでもいる女性として共感もできてしまう。この設定が、一見恋愛小説(特に前半)ともいえる内容のベースになっているため、とても不安定な精神状態の上で物語が進んでいくことになる。謎の多いマキシムや使用人、そしてストーリー的には最後の1/4程度で急激などんでん返しが用意されており、上下2巻、約800ページをどんどん読み進めたくなる、ミステリーとしてもドラマとしても秀逸な作品。