てんやわんや/獅子文六 1949年 評価:3
太平洋戦争後、戦犯の容疑を恐れ、師事していた代議士鬼塚の四国の郷里「相生町」に疎開した犬丸。彼は鬼塚の紹介で「相生長者」の家に食客として住み着き、彼や彼の知人から厚遇される。そこでの様々な人々との出会い、一方的な恋などを、まさに私小説の趣で描いた作品。
毎日新聞で連載された新聞小説であり、散文的な内容なのだが、自身の、終戦後の疎開地を舞台にしており、土地柄の描写がとても詳細でかつぬくもりを感じさせて、全体を包む雰囲気はとても柔らかく、ほっこりする。安穏とした地方で、のんびりと暮らす中でアクセント程度に出来事が降りかかるのだが、感心することはないのだけど、経験してきたかのような現実的な風景と、赤裸々な自身の心情の吐露により、非常に魅力のある小説である。なお、漫才コンビ「てんやわんや」は本作から名前をとったもの。