山本五十六/阿川弘之 1969年 評価:4
真珠湾攻撃を構想し、指揮した連合艦隊司令長官であり、軍神とも崇められるとともに、卓越した行動力と世界を俯瞰した思想をもち、指導者としても名高く、部下や仲間からの信頼も厚かった第二次世界大戦時の最も有名な軍人、山本五十六の伝記である。
著者は、五十六を知る膨大な数の人に話を聞き、様々な文献を調べ上げて書きあげ、その内容の客観性は、ノンフィクション作家として比類なき吉村昭を彷彿とさせるほど徹底している。
私はあまり世界大戦時の歴史に興味がなかったので、山本五十六のは名前はもちろん知っているものの、その行動や思想はなんとなく社会人となって色々な訓話で耳にすることはあったことで記憶に残っているが、その人となりはほとんど知らなかった。本作では五十六の偉大な面はあまり描かず、無類のギャンブル好きだったことや、長期間にわたり精神的にも深く寄り添う愛人を数人もっていたことなど、そのパーソナリティに焦点を当てている。そのため、かえって一人の人間としての魅力が浮き上がってきて、単なる英雄伝になっていないところが魅力的である。
なお本書は、オリジナル版の発行(1966年)後、その内容に遺族からの抗議等があったため、約300ページに及ぶ補筆を加えた新版である。