TUGUMI/吉本ばなな 1989年 評価:3


 海辺の小さな町(伊豆がモデル)の旅館に働く母親と二人で暮らすまりあ。その旅館には母親の妹夫婦の娘の陽子とつぐみが住んでいた。互いに一つづつしか年の違わない三人は、青春時代をその町ですごす。山本周五郎賞受賞。

 生まれた時から器官が弱く、甘やかされて育ったために生意気な性格になったつぐみと、彼女に振り回されつつも、その中の純粋な性格を理解して仲良くなっていくまりあを軸に、海辺の町での多感な時期の様々なエピソードを積み重ねる。絶妙な描写と会話の間などにより、ビビットにその町の潮の香りさえ運んでくるような表現力と、大人へと移り変わる時期の、不安定で、後から振り返るとなぜあのころの記憶はこんなにも鮮明なのかと不思議に思うような何気ない景色や動作の描写に唸らされるのだが、エピソードの積み重ねであるのと、最後はなんとなくあっさりと終わってしまうので、物語としては物足りない感は残ってしまう。