十字架/重松清 2009年 評価:4
クラスメイトからいじめを受けていた中学2年生の男子生徒が自殺した。クラスの3名から直接的に、それ以外のクラスメイトからは“傍観”という間接的な状態に置かれ、自宅の庭の木で首つり自殺した彼の遺書には、親友と好きだった女生徒への感謝が残されていた。吉川英治文学賞受賞作。
この作者の作品は中学生のイジメを題材にすることが多いのだが、本作ではいじめを受けた当人やいじめる側の視点ではなく、残された親、いじめを見過ごしたクラスメイトの視点での20数年の期間を描いている。精神的におかしくなってしまった母親とそれを懸命に支えなければならない遺族は当然、イジメを行っていた張本人だけでなく、クラスメイトにも静かな怒りの矛先を向ける。人を一人殺したという重荷を各人に背負わせるために。その様はやりすぎと感じる部分もあるのだが、私が父親の立場だったら、それが人道に外れることと認識していたとしても、やはり同じようなことをしたくなると思うし、父親の気持ちは痛いほどわかる。
悲しみは時が解決するもの。しかし忘れることで解決するのなら、その悲しみを背負って生きていたいという感情もこの年になると良くわかる。これまではイジメの核心に近い人物を書いてきた作者が、実際にイジメによる自殺で息子を亡くした親へのインタビュー番組にインタビュアーとして参加したことを通じて生まれた作品で、これまでの視点に加えて、さらにその周りの人物像を掘り下げた意義深い作品と言えるだろう。評価は5に近い4。