キッチン/吉本ばなな 1988年 評価:4
若くして両親を亡くしたみかげは祖母と二人暮らし。その祖母が死んでしまい一人ぼっちになってしまったみかげを、一緒に住まないかと誘ってくれたのは、生前祖母がいろいろと世話になっていた花屋に勤める青年。その青年と彼の母(であり父)と奇妙な3人暮らしが始まる。「キッチン」と「ムーンライト・シャドウ」の2編が収められている。
近年では珍しく、悪人が出てこない、ざらざらしか感覚を感じさせない小説である。描かれる世界は、登場人物が関連する人の死に面して打ちひしがれるところがあるのだが、それも人生と考えついて再生に向かうというもの。描写は瑞々しく、その小説世界の風景を感じさせるし、といって、文章に凝ってしまわない程度の現実性も持っており、登場人物も時々どきりとするような発言をして、完全な善人ではないんだぞということもアピールする。このような感情は、大げさにいえば現代の川端康成と似ているともいえるかもしれない。人生の辛さも感じさせながらほっとさせる内容は、結構癖になりそうな予感。