Nのために/湊かなえ 2010年 評価:4
都内の高級高層マンションで、ある夫婦の殺人事件が起こった。警察が賭けつけた時、そこにいた4人の若者の証言は一致しており、その内の一人が殺人の罪で10年の服役刑となる。それから10年後。関与した4人はそれぞれにその時の真実を語り始める。
あるひとつの事件を複数の関係者から語らせるという手法は、芥川龍之介の「藪の中」やそれをベースとした黒澤映画「羅生門」が有名である。本作もその系列でのミステリー的魅力をもってはいるが、4人の話は基本的に大筋は一緒。ただ、10年後の語りということでなんとなく曖昧でぼやっとしている。
10年前の殺人事件は、警察が本腰で調査したら真相は解明されていただろうと思われる甘い設定、辛い過去を持った若者4人がひとつところに集まる安易な偶発性というのは私が受け入れない条件なのだが、本作はそれが主題ではない。心に傷を負った若者が、同じ人種たちで自然と集まり、お互いの傷を明確には確かめないまま、ひとつにベクトルに向かうことにより、現代の精神的な社会の病巣を描きだす。そんな現代的な問題の炙り出し方に唸らされる。