道草/夏目漱石 1915年 評価:4
大学教授で、時折新聞社に原稿を書くという生活を送っている健三。健三は養父島田とその妻、奔放な夫をもつ姉から金銭援助を乞われ、金持ちでもない健三の家計を悩ませることになるとともに、普段から仲の良くない夫婦の新たな亀裂の種にもなっていく。
健三の境遇は完全に漱石を倣ったものであり、自伝的小説であるのだが、いや、よくもまぁ、自分自身と妻の心情をこんなにも掘り下げ、しかも活字にしたものだと感心してしまう。健三は気分屋で自分勝手、無責任で小心者、家庭のことはほったらかし。妻はヒステリーをもち、癇癪持ちで教養がない。この二人のそれぞれの心の持ちようを冷徹に分析している。
私は今まで夏目作品は「こころ」とか「吾輩は猫である」ぐらいしか読んでいないが、文豪と呼ばれる彼の才能の一遍に遅まきながら触れたという感じだ。それぐらいにこの作品の内容に興味をひかれた。しばらくまた楽しみが増えた。