戦中派不戦日記/山田風太郎 71年 評価:3


 作者が23歳で東京医学専門学校生だった1945年1年間の日記である。後にその時代を振り返るといったものではなく、終戦前後まっただ中のその時代を生きた学生の生の日記であり、当時の一般的な若者の考え方を知るための貴重な歴史書としての一面も持っていよう。作者は肋膜炎で徴兵を免れ、実家が医者だったためか金銭に困っていた風もない。また、性格的に世の中から一歩引いて世間を見ており、客観的、正直に当時の思想を記している。

 敗戦直前までほとんどの人が本土決戦になってもなんとか耐え抜けるとか、降伏するくらいなら死ぬまで抵抗するとか、如何に客観的で正確な情報が遮断されていたかがわかるし、終戦前後の日本人の切り替えの速さや確固とした軸のない文化などが、作者の眼から冷静に分析されていて興味深い。しかし、読み物としては文語体が多くて読みづらいのも確か。