火星年代記/レイ・ブラッドベリ 1950年 評価:4
1999年。人類は初めて火星に降り立った。火星には人類より古い歴史をもつ火星人が暮らしていたが、長年の文明を生きてきた結果、科学とテレパシーは異様に発達したが、それ以外はてんで平和ボケした生き物と化しており、人類の侵略を許し、結果、人類のもたらした水疱瘡で絶滅してしまう。人類は火星を植民地化するが、乗り込んできた数は数万人にも膨れ上がり、そこに地球と同じ差別のある社会が生まれてくる。
現代となっては、火星にそんな生き物がいるという設定自体が古めかしいので、何か違和感があるが、本作の主題は人類の低俗さや文明の発達は決して生き物を幸せにはしないということであろう。
人類は地球上で全面核戦争が起こり、それに参加するため引き上げていくのだが、周りが引き揚げる中、火星に残った家族の悲しい末路や、その20年後に火星に逃げてきた一家族の孤独などが、詩的なブラッドベリの筆致によって、より鮮明に、感傷的に描かれ、その悲哀は手塚治虫の漫画にも匹敵するほどの絵的インパクトを与えてくれる。