美しい星/三島由紀夫 1962年 評価:3
それぞれがUFOを見たことから、自分たちは宇宙人と信じる、夫婦と息子と娘の4人家族である大杉家は、米ソの冷戦状態の世界情勢の中、世界全面核戦争から人類を救えるのは自分たちだけと信じ、各地で世界平和のための講演会を開催する。一方、同じくUFOを同時に目撃した、東北の大学助教授をはじめとするこれまた自分たちは宇宙人と信じる3人組は、愚かな人類を滅亡させるのが自分たちの使命と信じ、その方法を模索する。この相対する2組の宇宙人集団は、大杉家にて生死を賭けるような論争を始める。
突拍子もない内容だが、三島はいつものことながら緻密で全く気の抜けないかっちりした文章を終始貫き、そして外見的にも内面的にも下層の人間である、白鳥座から来たという3人組があまりに下劣で、本作はコメディかとさえ錯覚してしまうほどのコントラストの鮮やかさ。
終盤は父と助教授の論争が延々と続くのだが、もうこれは、この愚かな人類たちは絶滅すべきか、愛すべき何かに免じて生かしておくべきかという、本来は神々しか論ずることができない内容に対する三島の思想を、狂言者の口を装って綴っているにすぎず、思想小説と言うべき迷品といえるだろう。ただ、本作がそのような奇抜な設定でありながらしっかりと構成がぶれないのは、宇宙人と信じる7名は実際にUFOを見たという設定の上にあるからであろう。もし私が普通の日常の中で実際にUFOをこの目で見たのなら、大杉家の人たちのようにはならないとは断言できないと思う。
とにかく、三島の文章は驚嘆するしかない構成力で、それは芸術的である。構成力が突出しているセザンヌの絵画と同じく、その才能には畏怖せざるを得ないが、好きかどうかは人によってずいぶん差が出てくると思う。私はそこまでは好きではないかな。