桐島、部活やめるってよ/朝井リョウ 2010年 評価:5
とある田舎の県立高校。バレー部のキャプテンである桐島が突然部活を辞めた。その出来事に対して深浅の違いはあっても影響を受けるクラスメートや同部員など、5人の普通の高校生(文庫化にあたってさらに一人分追加)の心の移ろいや、周囲の友達との水面下の心の葛藤などを瑞々しく描いた個性的な傑作。2012年に映画版が公開され、こちらの評判も高い。
ストーリーがしっかりあって何かに収束していくというものではなく、散文的で短編集というような内容なのだが、それでも惹きつけられる魅力がこの作品にはある。今から思えば無駄な3年間とも感じられるが、きっと表面に現れないだけでその間に自分自身の色々な側面をもった心の結晶ともいうべきものが確実に成長していく高校時代。心の分析などせずに矢のように過ぎる3年間。その中の一瞬の心模様が痛いくらい感じ取れる表現の数々が、無駄に蓄積した心の垢を洗い流すような感覚。ラストはいい加減に部活をやってきた男子生徒が、「下」のグループの映画に打ち込む二人組の「ひかり」をみて、桐島に前向きな言葉をかけに行くという、ほんのちょっとハッピーな感覚で終わるのもとても自然で爽やか。
私は高校時代、「下」のグループではなく「上」と「中」の間のちょっとずれたグループに所属していて、もちろんその当時、そんな意識はしていないつもりだったが、今思えばこの作品に書いてある心情が無意識の中にあったのだろうと思う。そういうものを数多く思い出させてくれて、だからと言ってそれがどうだということもないのだが、私にとって稀有な作品になったということだ。
私はこれを読んで、些細なことだが素直に認めなくてはいけない狡さに気付いた。私は昔から団体スポーツより個人スポーツが好きで、その理由を、所属するチームが強くなるためには自分だけ練習してもどうにもならない、自分だけでどうにかしたいという気持ちが強いから、と整理していたが、実はそれより強い原因があったのだ。私は外見的にスポーツができるように見えるのだが、運動神経は人並みでしかない(これはずっと昔から気付いているし認めている)。団体スポーツをやって、自分の運動神経が大したことがないと周りに悟られるのが嫌だったのだ、怖かったのだ、プライドが許さなかったのだ。それが個人スポーツが好きということになった一番大きな要因だった、と今素直に認めよう。「一番怖かった。本気でやって、なにもできない自分を知ることが」