2001年宇宙の旅/アーサー・C・クラーク 1968年 評価:5


 300万年前、人間の祖先であるヒトザルの進化は停滞しているようであった。ある日、そのヒトザルの群れの前に高さ約3メートルの長方形の金属製の板が現れた。その板は幾何学的な模様の映像を浮かび上がらせ、それに興味を示したヒトザルは物を道具として使うという画期的な進化を遂げる。時は移って1999年。月面上で同様のモノリスが発見され、それが初めて太陽の光を浴びたとき、土星に向けて強烈な電波を発信した。その2年後、人工知能HALと5名の乗組員を積んだ宇宙船ディスガバリー号は土星へ秘密の任務をもって出発する。

 SF映画の金字塔である「2001年宇宙の旅」の原作であるが、実際は映画と同時期に書き始められたものであり、クラーク作品としては、映画化を意識してか非常にわかりやすいものであるといえよう。映画版との大きな違いは以下の3点だが、それ以外、大筋はほぼ踏襲されている。
 ・モノリスがヒトザルの時代の地球に出現した理由が明確(しかも真黒ではない)
 ・月面のモノリスから発信された電波及びディスカバリー号の目標が木星ではなくて土星
 ・ラストでボーマン船長がスター・チャイルドとなったことの意味が明確

 作者のクラークは、「クラークはキューブリック(映画版監督)にレイプされたのだ」というレイ・ブラッドベリの言葉に、「レイプはお互い様」と語ったということだが、確かにその通りで、映画版を先に観た私は、本作で何となくイメージが難しい描写があったとしても、映画版のイメージがあるのですんなり頭の中で映像化できたし、映画版で意味不明とされる部分は本作でほぼ明らかになっている。

 とにかく、映画、小説の相互作用により、全ての情景が目に浮かぶようで、それにより実際の宇宙空間における絶望的な孤独と脅威、恐怖が直接感じられるし、モノリスが人知を超えた超知的生命体の実験道具(ある意味、おもちゃでもある)であり、スター・チャイルドは生き物が究極の進化をした物質であるという解釈も、映画版の突き放し方に負けず劣らずインパクトのある終結だと思う。映画と小説のどちらと先に遭遇しても、どちらも素晴らしいという評価は揺るぎないだろう。