凍りのくじら/辻村深月 2005年 評価:4
著名な写真家であったが、癌を患い失踪した父の好きだった、藤子・F・不二雄の「ドラえもん」をこよなく愛し、無類の読書好きである高校生の理帆子は、本来は冷めた自分の人格を隠し、どんな人種とも表面的に仲良くやっていけたが、自分自身の存在が薄いことも良く認識していた。そんな高校2年の夏、同じ高校のひとつ上の先輩男子生徒から「君の写真をとらせてほしいと」頼まれる。
丁寧で誠実な筆致が、今どきの高校生の揺れ動く存在の危うい魂を瑞々しく描く。また、人間というものを良く観察し、その心を上手く表現できる作家である。と言って、暗くてうんちく深い雰囲気にはなってなくて、物語の進行をドラえもんのひみつ道具に例えたり、程良い登場人物のバランスとそのキャラクター付けも上手で、とても惹きつけられる作風である。
結局のところ、ストーリーの肝は映画「シックス・センス」と同じで、私もなんとなく途中から変だなぁと気づいてしまう点と、エピローグでの小学4年まで口がきけなくなるほど、心に傷を負っていたはずの父の親友の隠し子の、あまりの豹変ぶりが本編と釣り合いが取れないのが減点で評価5にはならないが、誠実な文章は好きだし、また別の作品を読んでみたいと思わせる作家だ。