夜と霧の隅で/北杜夫 1960年 評価:3


 1956年から1960年に発表された5編の短編からなる短編集。「夜の霧の隅で」は100ページを超える中編で、これで芥川賞を受賞した。

 作者自身の、東北大医学部卒で精神科医だったという経歴や、小中学生時の趣味であった昆虫採集、高校時の趣味であった登山に関連するような作品集で、好きであったからこその色彩鮮やかでビビットな表現は魅力的。芥川賞受賞の「夜と霧の隅で」は、第二次世界大戦下のドイツで行われていた、精神病者の強制的安楽死施策を背景に、ユダヤ人を妻に持つ一人の日本人の患者を狂言師にして、戦時下の異常な世相の緊迫感と正常であるはずの人間たちの退廃していく姿を描いた佳作である。