甲賀忍法帖/山田風太郎 1959年 評価:4
秀忠に続く第三代将軍を、秀忠の長男竹千代と次男国千代のどちらにするか決めかねていた徳川家康は、甲賀と伊賀それぞれが選りすぐった10名の忍者同士を戦わせ、その勝敗により決定することとした。服部半蔵の下、形上は友好関係にあった甲賀と伊賀だが、元来相容れない忍者同志であり、我が意を得たりとばかり、得意の忍法で壮絶な戦いを繰り広げる。
手も足もないのに口から長槍を突き出す地虫、どんな媒体にも溶け込み同化してしまう霞。眼力だけで敵の攻撃性を瞬時に自身に向けさせる甲賀の若き跡取り、同じく眼力で相手の忍術を無能にする伊賀の若き跡取り娘、驚異的な治癒力で決して死なない天膳などなど、奇想天外な忍者のオンパレード。そこに現実性はなにもないのだが、ここまで突き抜けてくれるとエンタテイメントとしての面白さは否定しようがない。忍者たちの戦いが始まり、即座に感じたのは、これは特異な能力をもつことになったミュータントを描いた「X-MEN」と一緒だということ。X-MENの初版より前の出版だから、X-MENがまねしたのではないかとさえ思うが、不死身の肉体をもつ天膳なんか、ウルヴァリンそのまんま。
本作は330ページほどの作品なのだが、小説のいいところは読んだ時間の映画以上に面白さを感じられるところ。20人の忍者をそれなりに説明はするのだが、ある程度以上は読者の想像に任せられる。それにより、読者は読者それぞれ十人十色の忍者像を思い浮かべることになる。そういう読む人ごとなりの奥深さをもつところが、小説の魅力なのだと思う。