舞姫/川端康成 1951年 評価:4
研究者の夫との間に一女一男を儲け、今は都内のバレエ教室で細々と教えている元舞姫の波子と、その娘で第二次世界大戦中から慰問バレエを行い、戦後も舞台デビューを目指している今の舞姫、品子。この4人家族の矢木家は、波子の実家の資産を切り崩しながら生活を続けてきたのだが、難しいことを言いながら行動力のない夫との長年の生活や子供たちが世に出て行こうという年齢になったことから、ついに波子の心の防波堤が崩れ始める。
会話による緊迫感が凄まじい。川端作品を読んでいると、奇抜な設定やストーリー展開はなくても、人と人とのそれぞれのセリフや描写に奥深い意味を付与すれば、人間同士のやり取りの中でいくらでも緊迫感は作れるものであることがわかる。結局、文章の中にどれだけの意味や含蓄を持たせて読ませられるかというのが文学小説であり、それが少なく、設定やストーリーにより読ませるのがただの小説といえるのだろう。それが端的に説明できるのがラストで、母娘が覚悟を決めて行動に移しつつある所で急に終わる。ストーリー的にはそれからが山場であるのに、だ。つまり川端にとっては心の中で覚悟を決めるまでが心情の山場であり、そこが彼にとって第一に描きたかったところなのだろう。それ以降は極端に言ってしまえばどうでもいいのだ。
しかし、つくづく、川端康成は女性を描くことに長けているなと感じ入る。登場する男性陣は何となくぼんやりして人物像が曖昧な印象なのだが、女性陣の心の動きは非常に繊細に詳細に綴られる。