死にゆく者への祈り/ジャック・ヒギンズ 1973年 評価:4


 天才的な銃の使い手であるマーチン・ファロンは、昔所属していたIRA(アイルランド共和軍)から追われる身であり、逃亡用のパスポートと船券を得るためにある暗殺を請け負う。標的は首尾よく片づけたものの、その現場を目撃した神父を故意に逃がし、その結果神父の姪にも悟られたことから、物語は殺しを依頼した暗黒街の顔役ジャック・ミーアンを加えて予期せぬ進展をみせる。

 超一流の銃の腕をもちながら、ピアノの腕前も超一級。しかも博識。その反面、IRAでの暗い過去を引きずりながら、自分の命を清らかなものに捧げようとするファロンがめちゃめちゃかっこいいのである。また、一番の敵ボスともいうべきジャック・ミーアンも偏執狂的な葬儀屋でその特異性が際立っているし、神父とその盲目の美女の姪のキャラも立っていて、登場人物すべてが明確な存在感を放っており、完全ハードボイルドの世界観なのだが、どっぷりと浸ることが可能。どこも非の打ちどころのないハードボイルド小説の傑作といえよう。