路傍の石/山本有三 1940年 評価:3


 明治中期、士族である父親が訴訟に夢中で極貧の生活を送らざるを得ない吾一は、成績優秀だったが、中学に行けずに呉服商に丁稚奉公する。学問を勤しみたい吾一は持ち前の行動力で東京に出、様々な経験を経ながら一人前の社会人へと成長を始める。

 本書は中途で終わっている。1937年に新聞に連載され、第一部まで終了したが、検閲により中段。翌年、当初の第一部に全面的に手を加えながら雑誌に連載を開始したが、軍部の圧力により第一部の再校さえならずに、そのまま中途で終わってしまった作品である。そのため、もちろん物語自体にも終焉がない。

 話の骨格は、貧しい少年の苦労を重なる中での成長物語で、人生の教訓になるような生きざまが多いという点では、山本周五郎っぽくはあるが、それよりももっと登場人物がみな泥臭い。主人公の吾一も決して素晴らしい人間ではなく、心の中では嫌な考え、卑屈な思想も持っていて、とても現実的な悩み多き青年なのである。この主人公がどうなっていくのか、本書の進む先を読んでみたかったが、それもかなわず、その意味で、評価は3にしかなりようがない。