All You Need Is Kill/桜坂洋 2004年 評価:3
地球から40光年離れた惑星の、人類よりもずっと進化している知的生命体が、新しい星への移住を目論見、環境を自分らの体に合うように変革するため、地球へ開拓マシーンを送り込んできた。人類よりはるかに強いこのマシーンと戦うため、なんとなく兵士となったキリヤ・ケイジは、あっという間にギタイに殺されるが、目覚めると記憶だけを伴って1日前の同じある時間に戻る。そしてこれが幾度となく繰り返されるうちに、キリヤは自身の戦闘能力を向上していく。そして、戦場で同じように時間ループを経験した凄まじい戦闘能力を持ったリタと出会う。
2014年夏に公開されたトム・クルーズ主演映画の原作であり、いわゆるライトノベルに分類される作品である。今回初めてライトノベルというものを読んでみたのだが、読み始めてすぐに、①今時感を出すためなのか倒置法の多用、②乱発する安っぽい比喩、③②を含めて、その時々の状況や心情に適合しない現実味のない会話によって、違和感を感じる。これがライトノベルの特徴なのか、本作の際立った特徴なのかはわからないが、特に③は、話の腰を折ってしまうほど不自然で、結果として上っ面を撫でたような、現実味のないアニメを見ているような感覚で読み進めることになる。まぁ、正直、文学と言えるものではない。
また、主な女性登場人物(数枚挿入されている挿絵によって余計に具現化されている)が、少女漫画系の線の細い外観であるとともに、話しっぷり、性格も含めてオタクが喜びそうな、この物語に全くそぐわないツンデレ系や萌え系なのも極めて違和感を感じるし、ラストではいつの間にかキリヤがリタに深い恋愛感情を感じていたり、ギタイを数百体もぶった切るような超人的な能力を備えているのも、つじつま合わせ感を強く感じさせる。人物像だけなら、映画版の、元々は気の弱い軍人ケイジ、大人の色気も感じさせる細マッチョでクールなリタのほうがずっと魅力的だ。
ただ、本作はハリウッド映画化されたとおり、ストーリー展開は奇抜で引きこまれるし、敵となる「ギタイ」の正体(戦闘マシーンではない)が明確であることや、ループを繰り返すキリヤの各ループで死ぬ間際に感じる苦痛や嫌悪感の描写など、映画版より秀でているところはあり、読み進めるのに苦痛ということはない。とはいえ、やはり現実感がなく感情移入もしにくいのは抗えなくて、ライトノベルというのは、たまに息抜きに読みたいと思うかなという程度。しかもよほど面白いと評判のものでないとだめだろうな。