戦艦武蔵/吉村昭 1966年 評価:3


 第二次世界大戦開戦前から大和と時を同じくして起工した世界最大級の戦艦、武蔵。民間会社が様々な困難を乗り越えて大戦中に製造し、進水を果たす武蔵だったが、戦争の戦術の中心はもはや巨大戦艦ではなく、戦闘機に変わっていた。何千人という血と汗の結晶であり、巨大な不沈艦とされた武蔵は、有効に使われることもないままあっけなく太平洋に沈没する。

 徹底的な下調べを行う吉村昭の筆になる作品であるため、ドキュメント的である。そのため、戦争ものにありがちな過度の物語性というものは一切なく、冷徹な筆致により、かえって戦争の愚かさが読後に込み上げてくる。

 描かれる内容の過半は製造過程である。長崎の入り組んだ海岸にある民間の造船所で、如何にこの巨大な戦艦を秘密裏に製造していったか、そのためにどれだけの苦労を会社や自治体などが払ったかというのは初めて気がついたようなもので、戦艦というものに対して新たな見方を教示してもらった。ただ、正直、読み物としては平均とはなってしまう。