赤ひげ診療譚/山本周五郎 1958年 評価:3


 長崎で医学を学び江戸へ戻ってきたばかりの青年医、保本登は、外部からの力により、新出去定、通称「赤ひげ」を責任者とする小石川養生所に赴任する。当初は貧乏人ばかりを相手にする粉汚い養生所で働くことを不本意として新出に反発する保本であったが、口数少なく無骨だが、医者としての揺ぎ無い使命感のもと、貧しく不幸な人々に救いの手を差し伸べる新出に、医師として生きるべき道を身をもって教えられる。

 保本の成長物語という一本の筋はあるが、8編の短編からなる作品。黒澤明監督、三船敏郎主演で映画化されており、名作として名高い。

 「自分の治ろうという気持ちほど強いものはない。医学はそれを手助けするだけである」とか「貧困がすべての病原」とか山本周五郎らしい人道的な印象深い台詞が多いし、保本が次第に赤ひげに敬服していく描写もとても魅力のあるものだが、やはり短編なので切れ切れの印象を受けてしまうのは致し方ないか。