仮釈放/吉村昭 1988年 評価:4


 自宅で自分の知り合いの男と情事の最中だった妻を発作的に殺害し、傷つけた相手の男を追ってその住家に火を放ち男の母を焼死させたことで無期刑となった元教師の菊谷。模範的に刑期を勤めた結果、16年で仮釈放となり、親切な保護司に恵まれて仕事も得、徐々に新たな生活に慣れていき、さらには再婚することになるが・・・

 吉村昭は、文章を書くにあたり綿密な調査を行う。また、この作者の筆致自体があまり抑揚がなく、淡々と進むため、一種普遍的で静粛な進行に裏打ちされて、仮釈放者の心境や社会復帰後の縛りが丁寧に丁寧に語られる。

 ラストの30ページぐらいまではなんとなく変哲のない話かと思っていたが、そこから急展開。結末は、そこまでに丹念に積み上げたエピソードが一見無駄に思われても、それだからこその衝撃となる。また、菊谷は一種、異常者の括りになるのかもしれないが、それまでの描き方が丁寧なので、ラストも必然とも感じられてしまうほど、ストーリー展開も演出も見事な作品となっている。

 人を殺めるという行為自体が行きすぎだったとしても、自分を裏切った相手を罰したこと自体は、16年を模範的に過ごしても、必然として反省はしなかった菊谷。ラストの展開にしても菊谷の行動はすっと腑に落ちてしまう。菊谷の気持ち、行動を100%責められるだろうかと、自分自身の罪と罰への考え方まで自問したくなるような衝撃作。大部分が平坦なため評価は4としておくが、5でもいいくらいである。