アンネの日記(完全版)/アンネ・フランク 1991年 評価:5
第二次世界大戦中、ドイツに占領されたオランダの隠れ屋に家族達と約2年間に渡って暮らし続けたユダヤ人のアンネ・フランクが、1942年6月の13歳の誕生日から1944年8月にゲシュタポにとらわれる3日前まで書き続けた日記である。1947年に出版された日記は、父のオットーが編集したもので、母親への辛らつな批判や性的な描写などが削除されているらしい。本作は、それらをほぼ原文のまま書き加えたものになる。
文才があるというだけの安易な言葉では表せない、才能を感じさせる文章は、十代前半の瑞々しい感性に溢れ、親兄弟や、一緒に暮らす家族に対する批判のみならず、2歳年上の一緒に暮らす家族の息子への恋愛感情や、政情への感想、自分の将来への夢など、普通のティーンエイジャーなら誰もが心の中に持ってはいるが、文字にすることが非常に難しい内容を、赤裸々に書き綴る。あまりにオープン過ぎて、排泄や自分の生殖器の描写などあきれてしまうほどだ。その歳にして冷徹な自己分析をしてそれを書く勇気に感嘆したり、時折暴走した記載になるところも中学生らしい真実味がより深まり、ある意味微笑ましい。
本の内容だけなら、本来の朗らかで楽天的な性格から(そうでなければそのような状況で日記など書けないが)隠れ屋生活の大変な状況はあまり伝わってこないし、同じような状態の繰り返しの部分もあって評価は4だとは思うが、最後の記載の3日後にナチスに捕らわれ、転々と収容所生活を送った約8ヵ月後にチフスで死亡するという人生を思い、捕まった後、どのように考えて生きていたのかを想像するに、アンネなら最後まで希望も自尊心も失わずに死を受け入れただろうと、そこまでを信じさせるほど中身は濃く、それだけの力強さがこの日記にはある。ナチスの非業の中生き抜いた、現代的な意思を持った一人の少女、しかも素晴らしい感性を持った作家がこの書物を残せたことが素晴らしいし、この日記の世界への影響力を考えるとき、やはり評価は5とすべきだと思う。