彼らの誇りと勇気について(感情的ボクシング論)/佐瀬稔 1992年 評価:4
昭和の中盤~終わりにかけて活躍したボクサーの、選手として、そしてリングを離れた場所での人間としての魅力を書きつづったエッセー集。正直、生でその選手の試合を見てない時代を描いているので(もちろん、ファイティング原田、大場政夫、海老原、矢尾板等の有名選手の名前は知っている)、いまいちピンとこないところはあるが、高度成長期の中で一時にせよ、人によっては、スポーツと呼ぶのも憚られる、端的に言えば「殴り合い」であるボクシングに人生を賭けた男たちには、一種の崇高さを感じてしまう。
一編一編にボクサーへの愛情が溢れている。彼らはなぜボクシングに惹かれたのか。そして止めるときの心境は、など、ボクサーという表面だけでなく、その裏面までを抉った内容に、日本ボクシング黄金期に魂を削りあった男たちの気高さを目の当たりにする。そして現在の世界チャンピオンを振り返ってみると、亀田をはじめとする、チャンピオンという肩書にのみ固執する一部の選手のあまりの情けなさ、そしてそれがボクシングをだめにしていっている状況に、やるせなさを感じてしまう。
私も最近よくボクシングを見に行くが、一流選手の試合以外はほとんど流して見るだけだった。しかし「殴り合い」というスポーツの場に身を置く以上、どの選手も常人以上の覚悟を持って取り組み、それぞれにそこに至るまでの尋常でない人生があるはずである。今後、ボクシングを見に行くとき、どの試合であれ、選手の裏の人生を思い浮かべて、真剣に観ることにしたい。また、ボクシングの聖地後楽園ホールにも行かねばなるまい。