樅ノ木は残った/山本周五郎 1958年 評価:2


 江戸時代前期に起こった伊達家仙台藩のお家騒動の中で権力に組した優柔不断な奉行、原田甲斐を、実は悪臣と見なされようとも伊達家存続のため身を挺した忠臣として描いた作品。

 まず、ある一人の登場人物に対し、苗字と名、役職、出身地、俗称と4つも5つも、その場に応じて呼称を変えるし、全3巻の長編で登場人物が多く、混乱してしょうがない。前半はそれだけで読むのが辛いぐらいだ。それが実態に近かったのかもしれないが、小説にまでそれを踏襲することはないだろう。

 それと、本作における原田甲斐はまったくの創作ということだが、その本人自身に魅力を感じない。とりあえず、耐え忍んで伊達家取り潰しの江戸幕府の嵐が収まるのを待つばかりというだけで、その先に本当に解決の道筋があるのかも疑問で、甲斐の行動にも納得できるものがない。正直、魅力の薄い作品。