潮騒/三島由紀夫 1954年 評価:4


 三重県の伊勢湾に浮かぶ歌島を舞台とした、父をがんで亡くし、母と弟を養う漁師になりたての新治と、養女に出されていたが老父の元に呼び戻された海女初代の純粋な愛の物語。

 ストーリー的には清い男女が、いくつかの障害を越えて結ばれるという特に変哲のないものであるが、さすが文豪・三島であって、孤島の地での風景、自然、住む人たちの純粋な肉体的造形美や精神の清らかさが、素晴らしい表現でつづられている。また、その根底に三島自身の、自然の中で自然に順応して生きるたくましい人間と精神への愛情が感じられる作品である。