手紙/東野圭吾 2003年 評価:5
幼い頃に父を亡くし、高校生の頃に母を亡くした武島剛志・直貴兄弟。兄・剛志は弟の大学入学のために金銭を盗みに入った家で、一人暮らしの老女を殺害してしまう。直貴の元には月に一度、獄中の兄から手紙が届くが、直貴には、「強盗殺人犯の弟」ということで、就職、恋愛、ミュージシャンとしての夢、ことごとくに過酷な人生が待ち受ける。自分を理解してくれる女性との結婚から、すべてに立ち向かおうとした直貴であったが、娘までも差別を受けるようになったことから、自ら、そして剛志が受けねばならない責任から逃れられないことを悟り、兄に最後の手紙を出す。
「強盗殺人犯の弟」ということで受ける静かな差別の描写は、過度のようでいて、実はとても現実的なものであろう。普通なら差別なんてなくなればいいと思う。だが、実際隣家の誰かが殺人犯だったとわかったら、明らかに内面にある気持ちは変わってしまい、それは結局は付き合い方にも出てきてしまう。本作のテーマはとても重く、どうにも救われない内容である。いや、救われる結末などありはしないのだろう。それでも読後に一種の清涼感を感じるのは、家族の犯した犯罪から、逃れられないさまざまな困難を受け入れざるを得ないと、清く悟った潔い意思によるものだと思われる。
ジョン・レノンの「イマジン」が効果的に使用される。「想像してごらん みんながただ平和に生きている世界を」その世界は望まれているはずで、私もそう望む一人だが、一一般人として、残念ながら完全にそう考えきれないところもある。40年前の曲だが、ジョンの魂は受け継がれず、その世界ははるかに遠いところにある。