魯迅文集1(吶喊、彷徨)/魯迅 1976年 評価:1
1900年代前半の中国の小説家である魯迅の『吶喊』と『彷徨』という名で括られた短編集。「吶喊」は有名な「狂人日記」「阿Q正伝」「故郷」等15編が集められたもの。『彷徨』は11篇が集められたもの。
この短編集(魯迅は短編しか残していないが)を読むと、彼は小説家というより思想家なのだなと思う。中国の、特に貧しい地域の現状を直接的、間接的に描写することで、国家の問題点を明らかにしようとしているように感じる。この貧困層を詳らかに描写する手法はドストエフスキー的ともいえるが、あまり物語性は高くはない。
これらを読むと、4000年という歴史がありながら、中国の近代というものが、非常に荒んできていることがわかる。今でもコピー商品の氾濫、金儲けのためには何でもやる、情報の過度の規制という国際社会にあるまじき行為の数々がこの国の低俗性を物語り、テロが起こってきて内部から徐々に崩壊している匂いがする。大戦中に日本の帝国軍隊がとった行動にはひどいものもあったろうが、根本的問題として、本作の時代でも良心というものがほとんど感じられず、ずいぶん前から中国人の人格が荒んでいたと感じられるのである。
少しでも隙あらば何でもむしりとってやろうとか、弱いものはとことん卑下する姿勢が文章の色々なところから感じられ、この短編集は読んでいて全く心が休まらないし、登場する一般市民の言動や行動に嫌悪感を感じ、そういう短編ばかりなものだから、全部読む必要はないと『吶喊』だけでやめてしまった。
しかし、日本でも中学3年生の教科書に取り上げられているという「故郷」だけ(読んだ中で)は、普遍的な内容で、人情にも、詩情にも溢れており、「もともと地上に道はない。歩く人が多くなれば、それが道になるのだ」という希望を追い求めることを例えた名言とともに心に残る一遍である。