小説 日本婦道記/山本周五郎 1958年 評価:4
江戸時代、武家の妻や奉公として働く女性の献身的な生き様を描いた短編集。
この作家のことだから、義理と人情に訴えるちょっとしたいい話、ほろりとさせる話でそれぞれ感動的だが、その時代のことだから、主人の働きの影でいかに主人や家系を支えたかという観点のものが多く、私自身は侍的な物欲のない道徳的な生き方というのは昔から好きなので(自分がそのように生きているというわけではないが)、とても共感できるのだが、現在の、特に女性に当てはめては考えられないだろうなという風に思っていた。
しかし、解説にある、作者の「女だけが不当な犠牲を払っているというのはとても心外で、もう一度よく読み返してほしい。そうではなく、夫も苦しむ、夫が苦しむのと同時に妻も夫と一緒になって、ひとつの困難を乗り切っていくという意味で書いた」という言葉から、確かに振り返ればそのとおりで、目から鱗が落ちた気分。表面的な物語でなく、そこにある真意を読み取ることが必要な、深い短編集なのである。
本作にもはっとさせられるような名言がいくつもあり、日本人たるやかくあるものという感性に大いに共感できるため、最近お気に入りの作家になりつつある。