永遠のゼロ/百田尚樹 2006年 評価:3


 誰よりも生きることに固執した零戦パイロット宮部は、その執念にもかかわらず、特攻により終戦間際に戦死した。彼の孫に当たる姉弟は、祖父の生き様を、一緒に大戦を戦った兵士の言葉から明らかにしていく。

 200万部を超えるベストセラーで、確かに面白くはあるのだが、それほど秀でているとは思えない。80歳を超える元兵士10人から昔の話を聞くのだが、そんな歳の人がそこまで細かく覚えているのか?という疑問は置いておくとしても、当の宮部に関する話は全体の1/3もなく、ほとんどが戦時中の海軍、空軍の戦い方や兵士としての考え方とかであり、本筋とは関係がない。推測するに、作者が本作を書くに当たって調べ上げたことを全て書きたいがために事細かに記載したのだと思われ、それは、第二次大戦が日本にとってどういう戦争だったかということを今の若い人に知らしめるという目的もあるのかもしれず、その意味では有益ではあるのかもしれないが、最近「出口のない海」で海の特攻兵器回天を、「瑠璃の翼」で実在した零戦パイロットの小説を読んだ私にとっては、大して新しい知識でもないため、各人の話によって、中心にあるべきストーリーが止まってしまうため、テンポが非常に悪いと感じてしまう。

 それ以外に、祖父の身辺調査をする姉の言動が、ジャーナリズムの世界で生きてきた人間のものとはとても思えないところなど、現代の描写が、過去の描写に比較して稚拙すぎる。また、肝心のストーリーについても、偶然や思い込みに寄る所が多く、無理やりの演出感も否めない。

 物語は普通に面白いとは思うが、「文学」としては平均点レベルにはいかない作品というのが正直な感想である。本作がデビュー作であるので、その他にどういう小説を書くのかが、作者にとって重要だろう。