凍える牙/乃南アサ 1996年 評価:3


 深夜のファミリーレストランで、突然男が炎に包まれ死亡。死因はベルトに仕組まれた発火装置で、殺人事件としての捜査が開始されるが、その男の脚には大型の動物の咬跡があった。やがて、大型動物による咬殺事件が次々と続き、女性白バイ警察官である音道と中年の典型的な叩き上げ刑事滝沢はオオカミ犬に着目する。

 警察という特殊な組織において稀有な存在である女性刑事と男性社会で生き抜いてきた刑事たちのお互いの葛藤は非常によく描かれている。また、オオカミ犬の神秘性や野性的な美しさもまるで目の前に存在するように鮮やかに描写されていて、さすがに直木賞受賞作というところはある。しかし、ミステリーとしてはあまりに二人の犯罪者の描写が希薄であり、怪奇事件としての動機が弱いし、犯罪の道程も結構いい加減である。まさにオオカミ犬を登場させるために設定を考えたといえるほどだ。

 乃南アサの作品は以前、比較的評判の良い「涙」を読んだが、特に好きではなかった。10年近く前に読んだので、またこの作家の作品を読んでみようと思って手に取ったのだが、確かに上手い作家だが、ちょっと私の琴線から外れてるんだなぁ。