スモーク&ブルー・イン・ザ・フェイス/ポール・オースター 1995年 評価4


 最近観た「スモーク」という映画がよかったので、その原作本を読んでみた。

 ブルックリンの街角でタバコ屋の雇われ店主として働くオーギー・レンを中心に、ブルックリンに住む人たちのおかしく、エネルギッシュで雑多な人間像を描いた戯曲。「スモーク」は全編を通したストーリーがあり、「ブルー・イン・ザ・フェイス」は「スモーク」撮影中の評判を聞きつけた業界人の盛り上がりで作った作品で、映画撮影とほぼ同時進行で脚本も出来上がったため、ほとんどストーリーというものはない。

 金持ちも、イケメンも全く出てこない、スタイリッシュさもまるでない内容なのだが、自分というものをさらけ出して生きている市井の様々な人種の息遣いがとても魅力的である。決して良い人ばかりではないし、感動させるような出来事があるわけじゃない。それでもここまで魅力的なのは、登場人物皆が、自分を飾ることなく、無理もせず、心からの欲望と自分に正直に生きているからではないだろうか。生き生きとした現代風の戯曲でコメディ的要素も多く(3度ほど車中で噴いた)、おき楽にでも読めるお勧めの一編。

 また、「ブルー・イン・ザ・フェイス」のほうでは、脚本から、公開する映画になるまでの各シーンの成立過程の解説も合わせて収録してあり、映画というものがどのように作られるのか、小説との違いがわかって、とても興味深い。