瑠璃の翼/山之口洋 2004年 評価3
1939年、モンゴルと満州国の国境近くのノモンハンで起こった日本とソ連が介入した「ノモンハン事件」。わずか3ヶ月間のこの紛争(最後は物量に勝るソ連の圧勝)を舞台に、航空戦で圧勝を続けた通称「稲妻戦隊」と呼ばれる飛行隊の活躍や、結局は無知な内地の参謀や作戦によりまさに戦争の犠牲となった若い命のはかなさを、戦隊長であった、作者の祖父、野口雄二郎の半生を軸に描いたノンフェクション。
実の祖父のことを書くのだから、膨大な資料を基にしたものと思われ、史料として一級の内容だと思う。しかし、あまりに膨大で広大な内容を詰め込んでいるため、正直、焦点が定まらず、読み物としては散漫な印象はぬぐえない。人間像としてあまり浮かび上がってくるものはないが、わずか100年前には鎖国状態だった日本軍の上層部の甘い考えや、自分の利害ばかりを考える内地の参謀たちの無能さが際立つ。まさに負けるべくして負けた戦いであり、そこで究極的には特攻という行為に至ってまで散らした命の儚さはひしひしと伝わってくる。
なお、満州とはどのような国であったか、ソビエト抑留とはどのようなものかなど、歴史が苦手だった私には勉強になることも多かった。