九月が永遠に続けば/沼田まほかる 2005年 評価3
高校生の文彦はある夜、ゴミ出しに行ったまま忽然と姿を消す。母親である佐和子は考えられる場所、伝手を探すがどこにも痕跡はない。一方その個人的探索の過程で、文彦が、佐和子と離婚した精神病院の院長と再婚した女の娘・冬子と会っていたこと、その冬子は男友達の線路内転落死亡事故に関わっていたことなどが次第に明らかになっていく。
作者の沼田まほかるは58歳にして本作でデビュー。本作は第5回ホラーミステリー大賞(第6回で終了)を受賞した。登場人物の心情やその目を通した風景の描写は、確かにこれが処女作とは思えないような表現力である(宮部みゆきに良く似てはいるが)。しかし、最近の小説にありがちな、強い作り物っぽいイメージが拭えない。
約10人程度の限られた登場人物の世界の中でだけ話は進んでいく。確かに意外な展開、おどろおどろしい奇怪な世界を描いてはいるが、都合が良すぎる。世界一優秀な日本の警察の捜査が全くといっていいほどない(それがあっては話が成り立たないため)、主人公佐和子自身が、子供のころの文彦とのかかわりの描写からサディストであり、彼女の考えが破綻をきたしている。文彦も家を出てそのまま何も連絡してこないことの理由がない、等々印象としては、まず複雑なストーリーを考え、それに合うように日常描写を合わせた感じ。だから一見面白い組み立てかもしれないが、閉じた世界だけで終わる、自意識過剰の内容。表面、まぁまぁ面白いが、決してそれ以上にはなりえない作品。