痴人の愛/谷崎潤一郎 1924年 評価2
西洋化が進む大正時代。真面目なサラリーマン河合は、高給取りだったが取り立てた趣味もないため、浅草のカフェで見かけた15歳のナオミを引き取り、上手く育てば妻にする考えを持ちつつ一緒に暮らすようになるが、ナオミは奔放で肉体的魅力に満ちた淫婦へと成長していく。
谷崎の作品が芸術的にどうこう言う以前に、どんなにナオミに裏切られても肉体的な魅力に抗えず身を持ち崩していく河合にいらいらしてしまい、正当な文学的評価が出来ない。今ならオタクでマゾとでも言うのか、親から嘘をついてもらった金までナオミに費やしてしまい、自分も会社を辞めざるを得なくなる河合の心情が全く理解できない。ナオミのような女と関係した経験がないと言ってしまえばそれまでだが、私だったらそこまで行く前に冷静に人生を考えて修正するだろう。そう出来ないのは、河合には没頭できることがなく、人生の楽しみを他に見出せないからだろうと思う。
確かに、男女の単純な痴話を400ページ近い文庫本に書き落としている中に非凡な文章力が秘められているのだろうが、そこを感じる以前に生理的に河合を受け入れられない。これ一冊で、ノーベル文学賞候補になっていた谷崎の作品の好き嫌いを決めてしまうわけにはいかないので、もう一冊は読んでみたいとは思う。