アンドロイドは電気羊の夢を見るか?/フィリップ・K・ディック 1968年 評価3
2020年代、広範囲の核戦争により、地球上には放射能灰が降り注ぎ、人間以外の生物はほとんど絶滅危惧種となり、人類は住めなくなってきた地球を捨て、火星への移住を進めてきた。火星の開拓には人間とほとんど見分けのつかないアンドロイドが使用されたが、その苛酷な環境から逃れ、8人のアンドロイドが地球に潜入。アンドロイド抹殺のバウンティハンター(賞金稼ぎ)であるデッカードは、手際よく抹殺を開始するが、そのうちにアンドロイドと人間の境、地球に残っている人類の生き方に混乱する。
SF映画の名作とされている「ブレード・ランナー」の原作だが、ベースとなる考え方と粗筋を拝借したものであり、映画ほどアンドロイドVSバウンティハンターという図式で進む内容ではない。
放射能灰が降り注ぎ、暗く淀んだ環境の中で、意識を共有する装置で電気的な信号を受けること(ここらの描写がわかりづらい)で精神の安静を保とうとする人類の唯一の楽しみというのが、本物の生物(より貴重な種であることがその人のステイタスとなる)を飼うこと。街も人の精神も荒んでいる世界で、4年の寿命しか持たず、人よりやや感情移入におとるアンドロイドをなぜ殺さなければいけないか、ディガードは悩む。その悩みを断ち切れないと仕事はやっていけないのだが、そうすればするほど、自分がアンドロイドに近づいていくという矛盾。ラストは少し救われるものではあるし、作者に共通する独特の近未来の造形作りは感嘆たるものだが、楽しい読み物ではない。