海と毒薬/遠藤周作 1958年 評価3
第二次世界大戦末期、九州大学で行われた米軍捕虜に対する生体解剖事件を題材に、そこに関与した医師や看護婦がどのような考えで事件に携わるようになったのかを通して、戦争末期の日本人の心理を、複数の視点から炙りだした作品。なお、事件自体は実話だが、本作は実話に忠実と言うわけではない。
登場人物はどれも特別猟奇的な人物というわけではない。クリスチャンであった作者が、日本人とクリスチャンの行動原理の決定的な相違を描くことを目的にしているということらしく、作中の教授の外国人妻の行動が対比的に描かれる。戦争の、しかも敗戦濃厚となった中でのやりきれない気持ち、病院の権力争いの中で明確な行動原理を持ち得なかった日本人の悲劇が描かれる。描いているテーマは重くて深いが、読んでみて何かを感じるとかいう気持ちをもてなかったのも事実で、平均的な点数となる。