花ざかりの森・憂国/三島由紀夫 1968年 評価3
表題の2作のほか、1944年〜1963年に発表された13篇を集めた短編集。「詩を書く少年」のような自伝的なものから、「卵」「百万円煎餅」のようなコント、「遠乗会」のある情景をヒントに物語としたものなど、バラエティに富んでいるが、一貫しているのは緻密で強固な構成を持った文体である。
私はこれまで三島作品は「金閣寺」しか読んだことがなく、それも相当昔なので、三島がどのような文章を書くのか忘れていたが、ある雑誌に、昭和文学で最も美しく緻密な文章を書く作家と紹介されていたため、本作を手にとってみたものである。
研ぎ澄まされた感覚とその感じていることを文章にしようという意志は、短編集だからなのか、細部まで妥協なく続けられ完結をみており、確かに他の追随を許さない高みにある。しかし、それはもちろん読者に相当の読解力を要求するものであり、正直読み続けると疲弊してきてしまう。素晴らしい文章であることに異論はもちろんないが、そう何冊も続けて読もうとは思えないのは短編だからなのかは、また近いうちに確かめなければなるまい。
ところで、若い将校夫婦のエロスと自害を描いた「憂国」を読んで、これまで読書で感じたことのない気分を味わった。帰宅途中の電車で読んでいたのだが、将校の割腹自殺の描写が凄まじすぎて、顔面蒼白、気分が悪くなってちょっと下車駅で休まざるを得なかった。気分が悪いながら、こんな感覚を小説から感じたのは初めてだと、なんとなくうれしいような気持ちもあった。やはり三島の文章はただものではないのだろうな。