古都/川端康成 1962年 評価5


 捨子であったが京都の織物問屋の一人娘として美しく成長した千重子は、祇園祭の日、自分にそっくりの苗子に出会う。苗子は自分には生き別れた双子の姉妹がいることを知っており、千重子との再会を素直に喜ぶ。二人はその後も何度か会うが・・・

 京都の四季の移ろい、そこで行われる祭りの数々を、独特の美しい筆致で描き出すとともに、実際に京都の人に吟味してもらったという京都弁での会話により、まさに「古都」という題名がぴったりという美しい作品である。

 これまで読んだ「山の音」と「雪国」が数年間に渡り書き足していった作品であったため、初めから長編としての構想を持って書いた作品はどうなのかという興味があって、本作を選んでみたのだが、川端康成の小説は物語の終結に向かって書かれるのではなく、最も美しい情景に向かい、その頂点で終結するのである。なので、本作も物語としてはまだまだ続きそうなのに、淡雪のうっすらと降る寒々しい京都の夜に、千重子と苗子がたった一度だけ一つ屋根の下で寝床を共にするその暖かさ、運命の寂しさを描ききって終わるのだ。

 芸術的過ぎて物語としてはどうか、という感がないとはいえないが、元々個人的に好きな京都弁の柔らかさ、それでも日本人の情緒、心情の移り変わりや昔からの営みの美しさ、侘び寂びの数々の表現が、日本人にしかわからない美的感覚を思い起こさせてくれるという部分を甘く見て評価5とする。